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台風の72時間予報は平均180kmずれる。進路を自分で予想して気象庁と比べる「予報士チャレンジ」を作った

台風情報の予報円を見て「思ったより当たらないな」と感じることがある。では実際にどれくらい外れているのか、そして自分が同じ立場で線を引いたら何km外すのか。それを数字で確かめられるアプリを作った。

予報士チャレンジを開く

やることは単純で、台風の現在位置と過去36時間の進路、中心気圧、太平洋高気圧の位置だけを見て、24時間後・48時間後・72時間後の中心位置を地図の上に置く。確定すると実際の進路が再生され、それぞれの誤差がkmで出る。

気象庁の予報は実際どれくらい外れているのか

気象庁は台風進路予報の検証結果を公開していて、台風進路予報の誤差から年ごとの平均値が確認できる。直近3年はこうなっている。

・2025年 24時間66km、48時間104km、72時間180km
・2024年 24時間71km、48時間106km、72時間152km
・2023年 24時間61km、48時間110km、72時間165km

24時間先はどの年も60km台から70km台に収まっているのに対し、72時間先は152kmから180kmまで年によって30km近く動く。プロが全力で出した予報でも、3日先となると年ごとの当たり外れが出るということだ。

この数字をアプリの採点基準にした。平均誤差が2025年の3予報の平均である117kmを下回るとSランク、24時間予報の66kmすら下回るとSSになる。逆に言えば、Sを取るのは気象庁の年平均を上回るということなので、そう簡単ではない。

誤差が72時間先に集中する理由

台風は自力ではほとんど進めず、まわりの風に流されて動く。夏の太平洋には太平洋高気圧が居座っていて、そのまわりを時計回りの風が吹いている。台風は高気圧の南側のふちに沿って西へ流され、張り出しの西端まで来ると北向きの流れに乗って北上を始める。さらに北緯30度あたりで偏西風の帯に入ると、進路が北東へ変わって速度も上がる。これが転向だ。

つまり進路予想の難しさは、どこへ進むかよりも、いつ曲がるかに集まっている。転向する前の台風は西寄りにゆっくり進むので、24時間先なら過去の動きをそのまま延長すればだいたい当たる。ところが転向したあとは進む向きが90度近く変わったうえに速度も上がるため、転向の判断が半日ずれるだけで、72時間後の位置は数百km単位で変わってしまう。

予報円が時間とともに大きく広がっていくのは、この転向のタイミングに幅があるからだ。円が大きいのは台風が大きいからでも、その範囲が危険だからでもない。

アプリでも同じことが起きる。高気圧の位置から転向する緯度を読んで24時間後と48時間後をうまく当てても、転向後の加速を小さく見積もると72時間後だけが1000km近く外れて、平均誤差が一気に悪化する。どこで外したのかが3つの数字に分かれて出るので、自分の読みのどこが弱いのかがわかる。

高気圧の位置が唯一の手がかりになる

画面には太平洋高気圧の中心が「H」で表示されている。この位置が読みの起点になる。

台風はおおむね高気圧の中心より3度ほど南の緯度に達したあたりから北へ向きを変え始めるので、現在の台風の緯度とHの緯度の差を見れば、あと何時間くらいで曲がりはじめるかの見当がつく。転向前の台風は1時間あたり0.13度ほどのゆっくりした速さで北上するので、緯度差が4度あれば30時間前後、という具合に逆算できる。

高気圧が北にあるほど転向は遅れて西寄りのコースになり、南にあるほど早く曲がって日本の東の海上へ抜けていく。実際の天気予報で「太平洋高気圧の張り出しが弱まるため」という説明を聞くのは、この仕組みを指している。

出題を作るのがいちばん難しかった

物理は既存の台風進路シミュレーターから流用したので、作業のほとんどは出題の設計に費やした。

最初は発生位置と環境を乱数で決めていた。ところが20問作って中身を確認したところ、16問が72時間のあいだ一度も転向せず、まっすぐ西へ進むだけの問題になっていた。過去の動きをそのまま直線で延長したときの誤差を測ると3kmから70kmしかなく、地図に定規を当てるだけで気象庁を上回るSランクが取れてしまう。原因は単純で、台風が転向する緯度に届く前に72時間が終わっていた。

次に、狙った時刻に転向するような発生緯度を計算式で逆算した。これも外れた。実際に走らせると転向は見積もりより12時間ほど遅く、24時間後から42時間後に曲がる問題がひとつも作れない。緯度が上がるほど北上が速くなる正のフィードバックがあり、単純な比例では合わなかった。

最終的に、発生緯度を二分探索で解く方法に落ち着いた。発生緯度を上げるほど転向は早まるという単調な関係があるので、狙った転向時刻になる緯度を数値的に求めればいい。式を立てるのをやめて、実際に72時間ぶん走らせた結果から逆に探した形になる。

進路を平行移動して地図に収める

転向時刻を制御できるようになると、今度は台風が地図からはみ出す問題が出た。転向前は西へ、転向後は北東へ進むので、転向が早い問題ほど東西の移動距離が長くなり、地図の幅である34度に収まらない。

ここで使えたのが、この物理モデルは陸地の判定を除いて経度に依存しないという性質だ。海面水温は緯度だけで決まり、操舵も高気圧との緯度差だけで決まる。つまり同じ進路を経度方向にそのままずらしても、形は変わらない。そこで一度基準の経度で走らせて東西の広がりを測り、地図に収まる範囲で平行移動してから、陸地の影響を含めて本番の計算をやり直すことにした。移動量を選ぶときに日本のいずれかの都市へ近づく側を優先すると、自分に関係のある進路が出やすくなる。

それでも、転向が18時間後や30時間後に来る問題は作れなかった。転向したあとの台風は北東へ加速して一気に離れていくため、残り50時間ぶんの移動を収められる地図が存在しない。これは出題の都合ではなく、実際の台風がそうだからだ。結局、転向が48時間後から72時間後に来る問題を主軸にした。日本の近海で実際に判断を迫られるのもこの範囲なので、結果としては現実に近い出題になった。

この構成で25問を連続生成したところ、すべての問題が日本のいずれかの都市から400km以内を通り、直線で延長したときの誤差は中央値で373kmになった。定規を当てるだけでは勝てない出題になっている。

再生をこま数で進めてはいけない

もうひとつ、実装で直した点がある。予報を確定したあとに実際の進路を再生する処理を、最初は描画のこま数で進めていた。これだと利用者がタブを切り替えたときに描画が絞られ、再生が止まったまま結果が出なくなる。経過した実時間で位置を決めるように直した。ブラウザのゲームで動きの速さが環境によって変わるときは、だいたいこれが原因になる。

まとめ

・気象庁の台風進路予報の平均誤差は2025年で24時間66km、48時間104km、72時間180km。72時間先は年によって30km近く上下する
・誤差が3日先に集中するのは、どこへ進むかではなく、いつ転向するかの判断に幅があるから。転向後は向きが90度変わって速度も上がるため、半日の読み違いが数百kmになる
・予報円が時間とともに広がるのはこの不確実性を表したもので、台風の大きさや危険範囲を示す円ではない
・出題は、発生緯度を二分探索して転向時刻を狙い、進路全体を経度方向へ平行移動して地図に収める方式で作った
・予報士チャレンジから。仕組みを操作して確かめたい場合は台風進路シミュレーター、勢力の育ち方は台風育成シミュレーターが対応する

このアプリのモデルは体験用に簡略化したもので、実際の予報とは別物だ。本物の台風情報は気象庁の発表を確認してほしい。進路が自分の住む地域に向いているとわかったら、停電もちこたえシミュレーターで手元の備蓄が何時間もつかを先に確かめておくといい。